後編では、
3.プロ向けのシミュレーターとの違い
4.家庭用のシミュレーターの実情
に触れながら、これからのシミュレーターの在り方について述べさせていただきます。
※前編では、
1.シミュレーターとゲームの違い
2.シミュレーターの「リアル」とは何か
について、技術的な解釈をご紹介しておりますので、まだご覧になっていない方は合わせて是非読んでみてください。→前編はコチラ
3.レーシングチームが使う「プロ向け」のシミュレーターとは?
一般公開される機体は、「家庭用のシミュレーションソフト」を用いるケースが多く、その内一部のソフトは、BMWがF1で使用した「プロ向け」のソフトがベースです。
ここで、プロ向けと一般向けのシミュレーターについて、比較紹介致します。
一般向けソフトも、基本的にはプロ向けソフトと同じことが出来る
実は多くの機能は、一般向けもプロ向けも同等です。ログの書き出しや比較も標準搭載され、遠隔地のリアルタイムテレメトリー(ログ監視)も可能。モーションアクチュエータも制御できます。必要に応じてプログラムを書けば、想像が付くことは大体実現可能です。
しかし、やはりプロのニーズに応えるには、プロ向けのソフトが必要となります。
先ほどもお伝えした通り、現在一般に流通しているシュミレーションソフトの一部は、元々BMWがF1開発で使用していたプロ向けのソフトが源流です(REDBULL F1チームも使用していました)。そこから、車両開発目的で求められる一部の計算対象を取り除いたり、単純化したソフトが一般向けのシミュレーションソフトです。
ここで、プロ向けと一般向けソフトの違いを1つご紹介致します。
プロ向けシミュレーターの特徴(一例)
例えば、プロシミュレーターの世界では、タイヤの計算モデルにMagic Formulaというモデルが用いられます。これは、タイヤや車両運動理論の研究で著名なDelft工科大学のPacejka教授が提唱する「実験同定モデル」です。実験同定モデルというのは、この計算モデルを数式で用意し、決められた実験で係数を求める手法です。
実験同定モデルを用いるメリットは2つあります。
1.タイヤが変わっても、同じ数式・同じ実験でモデリングが可能で、係数のみが変化
2.係数を用いるので、計算が高速に行える
実験同定モデルのイメージは、下記で詳しく紹介されています。
http://www.optimumg.com/software/optimumtire/
このMagicFormulaによる実験同定モデルはプロの世界で広く用いられますが、現時点で使用可能なのはプロ向けのシミュレーションソフトのみです。
さらに、実験同定モデルの作製には試験が必要となります。リム付きタイヤを測定装置に組みつけて実施しますが、そのためにタイヤを複数セット購入する必要があり(荷重・滑り・温度変化による劣化を考慮し、複数試験間で同じタイヤを使い回さない)、設備利用料も高価なため、計測に対するハードルが非常に高いという課題が御座います。
お手元にタイヤの計測データがあれば安価に活用可能ですが、タイヤデータを独自に取得されているケースは極稀かと思います。そこで私共のサービスでは代替案として、車両にセンサーを搭載してタイヤ特性を得る方法をご提案しております。
さて、一方で利用料が安価な一般向けソフトを利用する場合、Magic Formulaより限られた変数でモデリングしなければなりません。モータースポーツラボでは、その制限内で最大限の精度を引き出す車両全体のモデリング作業を承っており、コスト低減やプロ向けソフト導入前の検証に貢献致します。
尚、コースデータにおいては一般向けのソフトでもレーザースキャンされたコースデータが近年増えており、プロ向けソフトとの差は縮まっていると考えられます。
4.リアルが、より身近に
ハードウェアの低価格化で、シミュレーターは益々身近な存在になった
計算機(パソコン)やGPU(グラフィックボード)の低価格化に伴い、2007年頃からシミュレーターが一般に普及しはじめました。近年では、各社がハードウェアを開発し一層本格的なシミュレーターに触れる機会が増えました。
更に、昨今はプロのシミュレーターが目指す「リアル」と一般向けのシミュレーターが目指す「リアル」が同じ方向を向いており、その差が縮まったことでプロスペックの疑似体験がより身近になってきたと言えます。
個人保有が益々増える
シミュレーターのメリット(安全・安価・時短)を考慮すると、安いスポーツカーを買うか、シミュレーターを買うか、比較対象になり得ると考えております。
是非ご想像ください。自室やガレージに置かれた機体に乗り込み、ヘルメットの代わりにVRゴーグルを被り、あのニュルブルクリンクを、自宅でいつでも走り放題。
運用サポートの必要性
日々進化するするソフト・ハードへの追従、正しいデータの導入、ドライビングの解析等は専門知識を要します。従って、シミュレーターを導入すると共に「いかに上手く運用するか」のニーズが今後一層高まると考えております。
さて、この流れがモータースポーツの発展に一役買うことは疑いの余地が無いですが、提供者には相応の期待と義務が生じると考えており、最後に記して本稿の締めと致します。
「シミュレーター」には、リアリティを追求する義務がある
「e-sports」というワードをよく耳にする様になり、モータースポーツにも確実に波が及んでいます。ここで、ゲームの例として所謂シューティングゲームをご想像いただきたい。
そのユーザーの大半は、実際に戦闘を行ったことがないと思われます。同様に、実際のモータースポーツを経験せずにレーシングシミュレーターに触れるユーザーが多いのが、今のモータースポーツ像ではないでしょうか。
そこで、よく考えなければならないのは、これらは「シミュレーター」として展開されている以上、その再現度が高いものとしてユーザーに認知されることです。現実のモータースポーツと独立した競技であれば問題は無いでしょうけども、シミュレーターは現実と比較されるのが宿命です。
一方で、上述の通り、シミュレーターにはまだ幾つかの技術的限界がある。その点を踏まえ、バーチャルを通じて現実のモータースポーツをより多くのユーザーに正しく認識して頂ける様、筆者は今後も技術開発と情報発信を続けて参ります。
少し長くなりましたが、前編・後編をお読みいただきありがとうございます。
少しでもご興味お持ちいただけましたら、引き続きご愛読いただけますと幸いです。
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試乗会への多数のご参加、ありがとうございました。
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複数社とお話をしておりますが、設置場所や用途に応じてご提供先を検討させていただいております。
もしご興味をお持ち頂けましたら、是非下記いずれかまでご連絡ください。
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e-mail : msl-team@motorsport-lab.comへメール
その他、製品への関連有無問わず、シミュレーターに関するご質問も是非お気軽にお問い合わせください!
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