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執筆者の写真thsr1sf

実車キャリパーの搭載意義

お読みいただき、ありがとうございます!


数回に分けてSIMDRIVE開発の裏側、

少しだけディープなエンジニアリング面をご紹介いたします。


今回のテーマは「実車キャリパーの搭載意義」です。


手短に読み終える場合は下記まとめをご覧ください。

 【まとめ】

 ・ペダルとキャリパー以外にも部品は存在する

 ・ブレーキは温度や荷重に応じて摩擦係数が変動する特性があり、癖のあるシステム

 ・全て搭載した場合/キャリパーのみを搭載した場合

  いずれにおいても、ただ部品を載せるだけでは全体特性を再現できない

 ・部品特性はさておき、全体特性が再現できる方法がある

  その方法を普及帯価格に落とし込める様、構想中


-前書き-


さて、フィーリングを実車に近づける手法として、

実車のキャリパーを使用するケースを国内外で見聞きしました。


そこでSIMDRIVEへの搭載も検討いたしましたが、採用しませんでした。


先に、私共の考察結果をお伝えします。

「例え全部品を実車のままSIMに搭載しても、フィーリングは完璧に再現出来ません」

そもそも「どの車に合わせるのか」という問題が生じます。


その理由は下記でご紹介いたします。


まずは1.ブレーキの構成を確認し、次に2.それぞれの機能と特性をご紹介。

続いて3.考察、最後に4.対策で纏めます。


ちなみにこの手順3.を「モデリング」置き換えると、

「数値シミュレーション」のロジックづくりから製品開発への応用そのものです。

プロ向けSIMでは、こうしたた独自のロジックを全体に散りばめていきます。


では、ここから内容に入ります。

各値は説明の為に設定したイメージで、各車で異なります。



1.ブレーキの部品構成



ブレーキの部品構成

 足側から順に追ってみましょう。

 (1)ブレーキペダル

 (2)サーボシステム

 (3)マスターシリンダー

 (4)配管

 (5)ESCアクチュエーター

 (6)配管

 (7)キャリパー

 (8)パッド

 (9)ローター

 この位でしょうか。

 

 プロ向けSIMでは、これら全てを機体に搭載するケースもあります。

 ※ただし、一般向けSIMで全部品が搭載された例は見たことがありません。

 

 ここで、検討すべき事項は、下記2点としました。

 (A)キャリパーを搭載したらどこまで実車を再現できそうか

 (B)全て搭載したらどこまで実車を再現できそうか


 【1章のまとめ】

 ・ペダルとキャリパー以外にも部品は多数存在する

 ・全部品搭載/キャリパー搭載 それぞれに期待できる効果を2章で検討する



2.各部品の機能と特性


 【機能】で各部品の存在意味をご説明し、

 【特性】でフィーリングに影響する特性をご説明します。


 (1)ブレーキペダル

  【機能】モーメントを使って足の力を増幅させます。

  図のイメージだと、足の力が3倍になってサーボシステムへ伝わります。

  【特性】損失があり、足の力×倍率×98%くらいが有効力になります。

  踏み込みに応じて増幅倍率が刻々と変化します。

  マルチリンク(複数の接続棒)等複雑な機構が存在し、特性は車両により異なります。


ペダルの倍率特性(イメージ)

 (2)サーボシステム

  【機能】ブレーキペダルから伝わった力を受け、更に増幅するシステムです。

  ペダルに続き2段階で増幅する理由は、万が一このサーボシステムが故障しても

  ペダルの最低限の増幅が残る様にという、2段構えのフェールセーフが理由です。

  このサーボシステム、従来はエンジンの吸気負圧を用いて圧力差で増幅していました。

  しかし近年はハイブリッド車の増加に伴い、電気的機構が増えている様です。

  レーシングカーの場合、部品自体が省略されるケースがあります。  

  【特性】入力される力や速度に応じて、増幅倍率が決まります。

  従来システムは圧力(空気の動き)を使う関係で非常に複雑な特性を示し、

  電気的システムはECUで制御されるため、特性の把握は容易ではありません。


サーボ特性(イメージ)

 (3)マスターシリンダー

  【機能】機械的な力の入力を油圧に変換する

  配管を通じて各輪まで力を伝えるため、油圧への変換が行われます。

  ここでも入力側と出力側のバルブ面積差を使って力が増幅されるケースが多いです。

  【特性】入力と出力油圧はほぼ線形比例すると考えられます。


マスターシリンダー特性(イメージ)

 (4)配管

  【機能】マスターシリンダーからESCアクチュエーターの間を繋ぎます。

  【特性】金属製の配管ですが、圧力で微小に膨張することで

      ペダルのストロークが数%伸びることがあります。

      レースでよく使われるメッシュホースでは尚顕著です。


配管の膨張特性(イメージ)

 (5)ESCアクチュエーター

  【機能】ヨー運動の安定化、ABS、TCS機能を実現する為の増減圧装置

  【特性】スポーツ走行等で機能を無効にした場合、配管と同等の扱いが可能です。


 (6)配管

  (4)と同様です。


 (7)キャリパー

  【機能】油圧によって、ブレーキパッドを押し出します。

  【特性】キャリパー内部にも配管と同様の膨張特性があります。


 (8)パッド

  【機能】キャリパーによってローターに押し付けられ、摩擦力を発生する

  【特性】温度によって摩擦係数、パッド硬さが大幅に変化します。

  パッドが柔らかくなることで、ペダルストロークが数%のびることがあります。

  むしろ常温のパッドはあまりに固すぎて、違和感を増長する懸念があります。  

  強い力で押さえつけられるほど、摩擦係数は低下する傾向にあります。

パッドの摩擦特性(イメージ)
パッドの摩擦特性(イメージ)

 (9)ローター

  【機能】パッドと摩擦されることで、ホイールの回転を抑制する制動力を発生します。

  【特性】金属製ローターは温度によって膨張や収縮しやすく、

      ペダルストロークに僅かな影響を及ぼします。

     通常この厚みは調整機構で吸収されますが、1回のブレーキングで温度が

      急激に変化する場合は吸収できず、影響を及ぼします。


ローターの膨張特性(イメージ)

 さて、これだけの部品が直列で接続されているため、

 全体特性の再現は容易ではなさそうなことが見えてきました。


 また、温度や荷重に対して摩擦係数が非線形であり(高圧で効きづらくなる)、

 やや癖があることが整理できました。


 【2章のまとめ】

 ・各部品の関係から、全体特性の再現は容易ではなさそう

 ・ブレーキは温度や荷重に応じて特性が変化し、癖のあるシステム



3.考察


 検討事項として定めた2点について、推定結果を纏めます。

 (具体的数値で検討しましたが、極秘情報につきご紹介できませんでした…)


 (A)キャリパーを搭載したらどこまで実車を再現できそうか

  →下記課題が残り、フィーリングは再現できない

  ①キャリパー以外の部品が実車と異なる(全体特性を再現できない)

  ②パッドの摩擦係数が温度/荷重に依存し変化する為、ソフト内で処理が必要

  ③ローターの温度変化によるペダルストローク変化が再現できない


 (B)全て搭載したらどこまで実車を再現できそうか

  →ただ搭載するだけでは、上記②、③に加え下記課題が残る

  ・サーボシステムが正しく駆動できない


 以上より、

 単純な部品搭載によるブレーキフィーリングの再現は困難だと結論づけました。

 (具体的な差分をお出ししたかったのですが、お出し出来ずに申し訳御座いません…)


 しかし、重要なのは「部品特性」ではなく、ドライバーが感じる「全体特性」です。

 

 そしてこの全体特性を再現する方法は…あります。



ブレーキ全体特性(イメージ)

 【3章のまとめ】

 ・例え全部品を搭載しても、サーボ/パッド/ローターの特性が再現できない。

 ・部品特性はさておき、全体特性が再現できる方法がある



4.対策


 レースドライブでは操舵より、

 ブレーキコントロールの方が繊細さが求められると考えております。

 つまり、再現度を高める必要性が高い部品と捉えています。


 では、どうするのか…

 ブレーキシステムの特性を再現する機構や制御装置を製作します。

 

 高価かと言われると…現状は高価です。


 一般SIM界隈では、よく「FFBが~」とステアリング反力を気にする声が多いですが、

 ブレーキペダルのFFBも非常に重要です。

 

 なんとか普及帯価格に出来る様、構想段階ですが開発を行っております。

 しかし手が回っておらず、お約束できる目途は立っておりません…



【まとめ】

 ・ペダルとキャリパー以外にも部品は存在する

 ・ブレーキは温度や荷重に応じて摩擦係数が変動する特性があり、癖のあるシステム

 ・全て搭載した場合/キャリパーのみを搭載した場合

  いずれにおいても、ただ部品を載せるだけでは全体特性を再現できない

 ・部品特性はさておき、全体特性が再現できる方法がある

  その方法を普及帯価格に落とし込める様、構想中

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